近年、自ら命を断つ、と言う人間が増えて来ている。
其れは誰の目にも確かだ。
2003年の自殺者は3万2109人で過去最多(厚生労働省:2005年1月28日発表)。
そして其の中で30代の自殺が4000人を超えた。40、50代の男性が半数を占める。
因みに、2003年の交通事故での死亡者数は約8000人だ。
2003年は、1日に100人近くの人が自殺して居る事になる。
916秒(15分)に1人が自殺して居る事になる。

脅威だ。

だが、其の数が多ければ多い程、人の興味は薄れて行く物だ。
「またか。」
で終わる。
1人の人間の人生が終わった。そして其れは自分の手で。
そんな重大な事を、たった3文字、「またか」で片付けて良いのだろうか?

「自殺」と言うテーマは、あまりに脆く、不安定だ。だから、扱い難い。
しかし、だからこそ取り上げてみようと思った。

自殺を否定する人も居れば、肯定する人も居る。
俺は其のどちらでも無い事を前提にして読んで欲しい。
だからこそ、今回は曖昧な儘で終わろうと思っていると言う事も。
だが、此れだけは言っておこうと思う。
誤解を畏れずに言うが、


自殺する人間は、莫迦だ。


莫迦者だ。
でも、俺は此の莫迦共を、有無を言わさず否定したりしたくない。
自殺する人間にも、様々なタイプがあるんだ。
自分が苦しくなって、悩んだ末に自殺する場合。
世の中が嫌になって、耐え切れなくなって自殺する場合。
他人から心配されたくて、パフォーマンスとして自殺する場合。

挙げて行けば切りが無い。
一人一人の個性と同じ様に、自殺する理由にも個性があるんだ。

自殺する上で、軽い気持ちで、自分は何もせずに、社会や他人の所為にして死んでしまう人間。
此れは救えない。俺には、其の術は無い。
パフォーマンスとして、自殺する人間。
目を向けて欲しい、自分の事を気にして欲しい…。そう言う趣旨があって、自殺する人間。
此れも俺には救えない。
何度も自殺を図る人が居る。
「死にたいのに死ねない。」
何て言う。
手首に何本もラインを引く。
そんなに死にたいなら、何故もっと確実な方法を試さないのか?
「痛いのが嫌。」「怖いのが嫌。」
そんなの、俺には解らない。


大抵、こう言う自殺を取り上げたコラムや文献って言うのは…
いや、何でもそうだが、物事を評論する時には、其の対象である事柄の、外からでしか意見を表さない様に思う。
つまり、自殺をした事が無い人間が、自殺に対して意見する。
自殺した人間は、もう意見を述べる事が出来ないけど、自殺を考えた事がある人間なら其れが出来る。
自殺を考えた事も無い人間に、どうこう言われるのは、当人達も嫌悪しか感じないだろう。
自殺を考えた事の無い人間は、否定しかしない。
有り得ない。莫迦だ。命の大切さを…。

そんな事は、承知して居るんだ。

俺も、過去に何度か、自殺を考えた事がある。
実行した訳では無いが、そんなに重大な事じゃない。
「転職を考える」事や、「旅行に行きたい」と思う事と同じだ。
別段、決意や意思なんて物は要らない。

自殺と言うのは、どんな理由であれ、我が儘であり、『逃げる』事でしかない。
社会からの逃避、現実からの逃避、自分からの、他人からの逃避、生からの逃避。
とにかく、何かから逃げる為の「手段」なんだ。

俺の場合は、「手間」や「煩わしさ」からの逃避だった。
面倒臭い。
「何を莫迦な事を…」と思うかも知れないが、生きて行く事は本当に面倒な事なんだ。
「死」って言う物は俺には別に恐怖は無くて、死ぬ事に何の抵抗も無い。
生きる事と同じで、死ぬ事も当然なんだ。

「死ぬ気になれば何だって出来るんだから…」
無責任な人間は言うだろう。
しかし、そいつ等は知らない。
何も出来ないから、自殺するんだ。死ぬ事しか、選択肢が無いんだ。
自分の置かれている立場に、環境に耐えられなくなって、でも、自分で其の状況を打破する事は出来なくて、
人を動かす事も、相談する事も出来ず、自分の意思で出来る事が、自殺だけになった時、其れを選ぶんだ。

弱者だ。
人は言うかも知れない。
其の通りかも知れない。
だが、弱い人間が居る事を知って居るだろう?
結果があって、其れに身勝手な台詞を投げるだけ。
其の結果に辿り付く迄の過程で、どうして救ってやれなかったのか。
其れを憂う事は無いんだろうか。


心の弱い部分に芽生えた、楽になる為の近道。
其れが自殺なんだと、俺は思う。

否定も肯定もしない。
自殺したいと言う人間が居て、其の理由を聞いて、納得出来るなら止めはしない。
でもまだ、出来る事があるなら、其れを勧める。
「折角授かった命を…」なんて莫迦げた事は言わない。言えない。
命の尊さも、失う事の恐怖も、周りに与える影響も…
「自殺しよう」と決めた人間は、そんな事は全て理解しているんだから。

自殺を考えた事も無い人間が、偉そうな事を言うな。
「自殺」と言う逃げ道を選んだ人間が、偉そうに言い訳を語るな。

勝利も敗北も無くて、ただ逃げただけ。

「思い残す事が無い」人間なんて、居ないんだから。
だってほら、今日も世界は廻っているんだから。



平成十七年八月五日午前一時四十四分
以心伝心
竹下泰敬