第十一話

「にぎやか」

「どう?客入ってる?」
トオルはスティックを置いてコウキに尋ねる。
コウキはダブルピースで答えた。
「っっマンインですっ!!」
「イェエーーーッ!!」
本番1時間前なんて、どこのバンドもこんなモンでしょう。
トオルのカタカタが激しくなった。机の上のアルミ灰皿が揺れる。

僕の携帯が鳴る。
「またかよー?」
タカシが笑う。

@@
荷物置いてスタンバイ完了!!楽しみです♪
@@

「来たってさ。」
僕が言うと、
「呼ぶ?」
タカシがニヤリ。
「呼んじゃう?」
コウキがニヤリ。
「呼べーーーーッ!!」
トオルのドラムロールと共に3人は叫んだ。
「はいはいはいはい。」
僕は呆れて松田に電話した。
「え?も、もしもし?」
松田の声の後ではザワザワと観客達の話し声が響いている。
「あ、松田さん、いらっしゃい。」
「え?今大丈夫なの?」
「うん、もし良かったら、控え室来ない?」
「え?いーの?邪魔じゃない?」
「いや全然。今三人共居る?」
「うん。邪魔じゃないなら行きたいな。」
「うん。おいで?」
簡単に場所を説明しすると、
「俺迎えに行こうか?」
コウキが言うので、コウキの特徴を伝えた。
「頼むわ。」
コウキは手を挙げて出て行った。


「こんばんわぁー…。」
松田が恐る恐る入って来た。
「いらっしゃぁーーーイッ!!」
タカシが手を挙げる。
松田と高野は笑っている。
山下はコウキと意気投合したようで、肩を組んでいる。

「アキィ、紹介してよ。」
トオルが言う。
「はいはい。えっと、同じ会社の松田さんと高野さんと山下くん。」
順に紹介する。
松田は始めまして、と言い、頭を下げた。
高野はタカシと、山下はコウキと話すのに夢中だった。
「今日は思いっ切り弾けちゃって?」
タカシが言うと、
「あはは、あの席じゃぁ弾けらんないわー。」
高野が笑う。

3人はV.I.P席に招待した。と言っても、ただの2階席。
1階席しか使わないので、2階席はガラガラ。
だから、スタッフや、その知り合い、レコード会社の人なんかもそこに座る。

タカシは高野と楽しそうに話している。

松田が僕の横に座る。
「頑張ってね?」
「うん。ありがとう。」
言うと、高野が走り寄って来た。
「えーーーーッ!?坂下さん!?全然わかんなかった!!」
僕は少し戸惑った。
「ちょっと、ユミ、激し過ぎ。さっきあんたの事紹介してくれたのに。」
松田がなだめる。
皆が笑う。
「でも髪立ってる方が全然良いですよ。カッコイイ。会社にもそれで来て下さいよー?」
「あはは、無理無理。課長に殺される。」

山下はコウキを指差して言う。
「彼最高!もうヤバイ!!」
コウキも、
「いやいや、山下もカナリ来てるよー!?」

コンコン。

「あ、メグ。」
トオルがドアの方へ近寄る。

千葉恵。

トオルの彼女で、同じ専門学校に通っている。
「今日はにぎやかだねぇ〜。」
メグミは腰に手を当て、呆れた様に言う。
「頼まれてた奴、出来たよ?」
メグミは大きな紙袋を机の上に置き、どうぞ、と手を添える。
トオルが中から白い布を取り出し広げた。

―AiR-style―

「おおーーーッ!!」
僕等の、シンボル。

「こちらの方は?」
メグミは松田に会釈しながらトオルに尋ねた。
「あぁ、アキの彼女。」
トオルはさらりと言った。
「ぅぉおいっ!!」
メグミは口笛をひゅうと鳴らした。
「いつの間に?アキもやるねぇ〜。」
松田は手を振って否定した。
高野はニヤニヤしている。

「30分前〜。」
言いながらトシくんが入って来た。
「お?何?にぎやかだねぇ?」
僕等はまた笑った。

「じゃ、あたし等行くね?頑張って。」
松田は僕の手を握った。

少し、ドキッとした。
今更、緊張してきた。
ライブが始まるんだ。


メンバー3人だけになった控え室はとても静かだった。
トオルが黙って立ち上がる。
「ッし。」
タカシも立ち上がる。

本番、15分前。
嫌でもモチベイションは上がり行く。


ステージの袖でトシくんとコウキが待っていた。
円を組む。
僕、タカシ、トオル、トシくん、コウキ。
タカシは一息で言う。
「OK?準備は言いかチームAiR-style今夜のエスタは一味違う、何でか解るか?ワンマンライブ?CD発売?いやぁ、違う。」
そこでタカシは息を吸い込み、
「俺は恋をしたッ!!」
「マジでッ!?」
僕等はタカシを見た、一瞬だけ円が崩れるが、すぐに組み直す。
タカシはニヤリ。
「高野さんにフォーリンラブだっ!!」
「早えぇーーーッ!!」
「いえぇ〜〜〜ッ!!」

そして、タカシは円の中心に手を差し出した。
僕等はそれに自身の手を重ねる。
タカシが僕等を見回して叫ぶ。
「ユミちゃん大好きッ!!」
トオルは続く。
「メグちゃん大好きッ!!」
そして、タカシとトオルは僕を見た。
僕は笑ってこう言った。



「お前等、愛してるぞ。」
「うわやめて?」
「きもいマジキモイ。」
僕等は笑った。

タカシが言う。
「さッ!!気合は充分入ってんな?エスタ全開!!」
僕等は続く。
「Yeah!!」
繰り返す。

「ウチらって?」
「最高!!」

「ウチらって?」
「最強!!」

「ウチらって〜?」
「AiR-style!!」

「オーケー行くぞーーッ!!」